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執筆者の写真Nakamura Mineo

傷寒論解説(9) ~白虎加人参湯・桂枝ニ越婢一湯・桂枝去桂加茯苓白朮湯・甘草乾姜湯~



矢数圭堂 日本東洋医学会理事

白虎加人参湯・桂枝ニ越婢一湯・桂枝去桂加茯苓白朮湯・甘草乾姜湯

白虎加人参湯 「桂枝湯を服し大いに汗出でてのち、大煩渇解せず、脈洪大なるものは、白虎加入参湯これを主る。 知母(六両)、石膏(一斤、砕き綿にて裏む)、甘草(炙る、二両)、粳米(六合)、人參(三両) 右五味、水一斗をもって米を煮て熟し、湯成りて滓を去り、一升を温服す。日に三服す」。 白虎加入参湯です。これは前に出てくる桂枝湯のところで、桂枝湯を飲んで汗がたくさん出たのにまだ表証が去らないで、依然として桂枝湯を用いるべき例をあげていたのに対して、ここでは桂枝湯を服用して汗が出るということは前と同じですが、表証が去ってしまって裏の熱があり、喉が非常に渇くという状態になったということです。そして太陽病から陽明病に転移した場合について述べています。

 白虎加人参湯は知母、石膏、甘草、粳米、人参という五つの薬味からなっているもので、桂枝湯と同じような症状ではありますが、脈が洪大で、白虎加入参湯の脈の場合には桂枝湯に比べて非常に力のある脈ということで、この点が異なります。舌は、桂枝湯の場合には平生と変わりないのですが、白虎加人参湯の場合には薄い白苔があり、乾燥していることがありまして、喉の渇きもあり、冷たい水を好みます。

 いわゆる「大煩渇解せず」という状態があります。また小便の量も比較的多く、これは五苓散や猪苓湯の場合にも口渇があその場合には尿利の減少ということが出てきて、これらの処方との鑑別となります。

 白虎加人参湯は、中国では日本脳炎によく使っています。また日射病や脳出血の後の口渇、煩燥、発熱などの場合に使います。それから糖尿病でも、煩渇があって脈が洪大の場合に使います。

 糖尿病の場合には八昧丸がよく使われますが、初期で、割合体力があって、煩渇があって脈洪大という場合には白虎加人参湯を用います。皮膚病の場合、表に出てくるもので痒みがひどく(煩という状態)、赤みが強くて割合乾いているような時に用いることがあります。

 それから、腎炎や尿毒症などの場合にも使うことがあります。

桂枝二越婢一湯

次に「太陽病、発熱悪寒、熱多く寒少なく、脈微弱のものは、これ陽無きなり。汗を発するべからず。桂枝二越婢一湯に宜し。桂枝(皮を去る)、芍薬、麻黄、甘草(各十八銖、炙る)、大棗(四枚、撃く)、生姜(一両二銖、切る)、石膏(二四銖、砕き綿にて裏む)。右七味、水五升をもって麻黄を煮て一、二沸し、上沫を去り、諸薬を内れ、煮て二升を取り、滓を去り、一升を温服す。本云うまさに越婢湯、桂枝湯となし、これを合わせ一升を飲むべし。今合わせて一方となす。桂枝湯二分、越婢湯一分」。

 そのあとに細かい字で桂枝湯と越婢湯の合わせ方が書いてありますが、これは省略します太陽病で発熱、悪寒があって、熱が多く、寒が少ないという場合には桂枝二越婢一湯を用いるがよい。しかし脈が微弱であれば、これは陽がないということで、こういう場合には発汗させてはいけないということです。

 桂枝二越婢一湯というのは、桂枝湯と越婢湯を合わせたもので、桂枝湯二に対して越婢湯が一という分量で合方したものです。桂枝湯は『傷寒論』にありますが、越婢湯は『金匱要略』の処方で、『傷寒論』にはありません。大青竜湯という処方がありますが、これは桂枝二越婢一湯と分量の比率は違いますが似た処方で、大青竜湯の中の杏仁を芍薬に変えると桂枝二越婢一湯ということになります。ですから、この方は大青竜湯よりもやや虚証になった場合に使うということになります。  桂枝二越婢一湯の場合には脈が浮であること、ある程度の緊張があるということ、脈が微弱な場合には禁忌であるということです。熱と悪寒が交代に出てくるというわけではなくて、熱も悪寒もありますが、悪寒よりも熱の方がひどくて、熱のために顔面が上気していることもあるということ、それから頭や体に痛みを訴えることもあるということです。 一般に慢性病の場合によく使うのはリウマチや神経痛で、桂枝二越婢一湯に朮とか附子を加えて使うことが多いわけですが、このような痛みを訴える疾患によく用いられる処方です。

桂枝去桂加茯苓白朮湯 「桂枝湯を服し、あるいはこれを下し、すなわち頭項強痛、翁々発熱、汗無く、心下満徴痛、小便利せざるもの、桂枝去桂加茯苓白朮湯これを主る。  芍薬(三両)甘草(二両、炙る)、生姜(切る)、白朮、茯苓(各三両)、大棗(十二枚、撃く)。右六味、水八升をもって煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。小便利すればすなわち癒ゆ。本云う桂枝湯。今桂枝を去り、茯苓、白朮を加う」。 この処方もまた桂枝湯を飲んだ後の症状で、平素胃腸の弱い人が外邪に侵されて桂枝湯証のような、あるいはそれに似た症状を表した場合の治療法ということになります。桂枝湯の証に似ているけれども少し違う、類似の症状ということです。

 桂枝湯を飲んで、あるいは下剤を飲んで下し、なお頭や首筋がこわばって痛いということで、翕々発熱というのは、体表に熱が集中するようにポッポッと発熱することですが、そのような状態があって、汗が出なくて、心下部は非常に張って微かに痛み、小便の出が悪いという場合に、桂枝去桂加茯苓白朮湯がこれを主るということです。  頭や首筋がこわばって痛み、発熱があって汗が出ない。こういうものは太陽病の表証です。そして必ず悪風や悪寒を伴うはずですが、ここでは悪寒や悪風がないわけで、表証からきたものではないということになるわけです。平素から胃腸が弱い人が感冒のような外邪に襲われた時にこのような症状が出るようで、裏が虚してしまって表証に似たような症状を呈しているということです。したがって桂枝湯の証と誤って桂枝湯を飲ませた場合に起こる症状です。桂枝湯を与えたけれどもあまりよくならないということで、そこで頭項強痛あるいは心下満微痛、つまり心下部が張って微かに痛いという結胸の証に似ているということで、大陥胸丸のようなもので下し、あるいは大柴胡湯とか茵蔯蒿湯の証と誤認した場合です。

 この場合にはもともと裏が虚しているわけで、心下満で微痛で小便不利という状態を呈していますから、大柴胡湯とか茵蔯蒿湯で下してもよくならない、ますます裏が虚してくる、そこで裏を補って水をきばかなければいけないということです。裏の水が去って体力が盛んになれば、表を治する方剤を用いることなく、表証に似た症状は消失するということです。そこで表に働く桂枝をひとまず去って、裏の水をさばく茯苓、白朮といったものを加えて桂枝去桂加茯苓白朮湯という形にして使うことにより、尿量が増加し、心下に停滞した水が除かれ、膨満が去り汗が出て解熱し、頭痛や項部のこわばりも消退するという わけです。裏の水が去った後に依然として表証が残っていれば、その時に改めて表証を目標にして治療を施せばよいということです。

甘草乾姜湯 「傷寒脈浮、自汗出で、小便数、心煩、微悪寒、脚攣急するに反って桂枝を与え、その表を攻めんと欲す、これ誤りなり。これを得てすなわち厥し、咽中乾き、煩操吐逆するものは、甘草乾姜湯を作りこれを与う。もってその陽を復す。もし厥癒え足温なるものは更に芍薬甘草湯を作りこれを与う、その脚すなわち伸ぶ。もし胃気和せず譫語するものは少しく調胃承気湯を与う。もし重ねて汗を発し、また焼針を加えるものは四逆湯これを主る」。 傷寒で脈が浮いて自然に汗が出て、小便がたくさん出て、胸苦しい(心煩)、少し悪寒があって足が準急するというような状態があるものに、誤って桂枝湯を与えた場合について述べています。 「脈浮、自汗出で」というのは桂枝湯の証ですが、そのほかに小便数とか、心煩、徴悪寒という症状があり、脚の攣急といった症状も加わっているわけです。これは桂枝湯の証とは違うので、桂枝湯を与えて表を攻めるというのは「誤り」ということになるわけです。 このような場合に桂枝湯を服用したところ、子足が冷えて厥冷状態になってしまって喉が乾き、乾燥して唾液の分泌が止まり、胸苦しくなり、手足をあちらこちら動かして悶え、しゃっくりのような激しい嘔吐を起こすようになった。このような危険な状態を救うためには、甘草乾姜湯を作って与えるのがよいということです。脚の攣急が依然として存在している場合には、さらに芍薬甘草湯を作って与え、それで治って脚が伸びるようになる。  それから脚の攣急が緩んだあとで、胃腸機能の失調によって便秘して、うわ言をいうようになった場合には陽明裏実の証で、これは調胃承気湯を少し与えて胃腸の機能を調整してやればよく、便通がついてよくなるということです。芍薬甘草湯は、平滑筋の攣急によるものに非常に効果がある処方です。

 四逆湯ですが、これは附子の入った処方で、裏の寒冷と虚、表は仮の熱であるということを目標として使うわけです。裏が冷えて、手足の血行が悪くなり、冷たくなったような状態を呈している場合に用いる処方で、感冒とか下痢、吐瀉病、コレラ、急性の食餌中毒、急性・慢性胃腸炎、消化不良、しゃっくり、その他心臓衰弱などの場合にもしばしば用いられる処方です。

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