岡野正憲 日本東洋医学会/監事
本日は発疹と掻痒についてお話しいたします。 発疹と掻痒は,皮膚に外因性,あるいは内因性の原因によって炎症性の変化の出てきた場合,皮膚の異常反応として発疹および掻痒というものが現われてくるのです。 これは多くはアレルギー性(アトピー性皮膚炎)の反応として現われるように理解されておりますが,その詳細な発生の機序というものは,完全には解明されていない点もあるようです。
漢方における発疹・掻痒の考え方
漢方においての発疹・掻痒に対する考え方をお話しいたします。漢方においては,このような皮膚の変化を,皮膚だけを考えるということではなしに,全身の反応の皮膚に現われたものというような考え方に基づいて,全身の変調という点からこれを捉えて,全身の変調,つまり人間の正常の働きのバランスの歪みを正すというような方向から治療に入ってまいります。 そして発疹や掻痒という皮膚の変化を,気・血・水の異常というように考えて,人体の正常機能を保ってゆくエネルギーのような気というものと,血液や体液などの流れというものに異常がある結果,身体の表面に反応が出てくるというように考えているわけであります。したがってその異常のもとを漢方的診断によって発見して,生体の働きを正しい方向に向かうようにするのが漢方治療というわけであります。 漢方医学では,ど承知の通り,診断即治療でありますから,診断と同時に薬方の選定ということになるわけです。つまり,気の異常というものには,気剤というような気の流れをよくするものを用いますし,血液の流れの異常には,血毒,瘀血を除き,血液の流れをよくするものを用い,体液の異常には水毒を除く薬方を用い,いくつかの複合したものには,各々の薬方を複合させたりして用います。 発疹,掻痒に用いられる薬方は,十味敗毒湯,消風散,温清飲,当帰飲子,越婢加朮湯,桂枝茯苓丸,桃核承気湯,大黄牡丹皮湯,当帰芍薬散,大柴胡湯,小柴胡湯,四逆散,大承気湯,小承気湯,白虎加桂技湯,白虎加人参湯,温経湯,黄連阿膠湯,三物黄芩湯,桂枝加黄耆湯,桂麻各半湯,梔子柏皮湯,五苓散,八味丸,真武湯,加味逍遥散,防風通聖散,黄連解毒湯,清上防風湯,袪風敗毒散,竜胆瀉肝湯,柴胡勝湿湯,十全大補湯,大芎黄湯(治頭瘡一方),葛根湯,香蘇散,茵蔯蒿湯,橘皮大黄朴硝湯,托裏消毒散,千金内托散,黄耆建中湯,帰耆建中湯,排膿散,紫根牡蛎湯など多数にのぼります。これに加える生薬は,大黄,石膏,桜皮,梔子,荊芥,連翹,黄耆などがあります。またこのほかに兼用されるものとしては,芎黄散,応鍾散,八味丸,桂枝茯苓丸などがあります。
主な薬方についての解説
十味敗毒湯・これは日本の華岡青洲の作った薬方で,柴胡,桔梗,防風,川芎,撲樕,茯苓,独活,荊芥,甘草,生姜の10種類の生薬で構成されていますが,浅田宗伯は撲樕の代わりに桜皮を用い,また連翹を加えた11種類のものを用いております。
これは陽証で,虚実中間証くらいといったところに用います。多くは乾性の皮膚の病変に用いられますが,多少化膿のあるもの,浸出液があってもあまり多くないものなどに用います。これに大黄や石膏を加えて,消炎作用を強めることもあります。 消風散:これは『外科正宗』に書かれている薬方で,当帰,地黄,朮,防風,牛蒡子,蝉退,苦参,荊芥,知母,胡麻,甘草,石膏,木通の13種類の生薬から構成されており,また『和剤局方』に書かれているものは12種類の生薬の構成となっております。『外科正宗』の構成のものが現在は多用されております。 消風散は陽実証のものに用いられ,発疹や浸出液が多く,かゆみの強いものに用いられます。また大黄を加える場合もあります。
温清飲:『万病回春』に書かれている薬方で,当帰,地黄,芍薬,川芎,黄連,黄芩,梔子,黄柏の8種類の生薬から構成されております。 この温清飲は,陽証であって,虚実中間証くらいの乾燥性の病変に用いられます。 かゆみや炎症が強い場合が多いので,多くは荊芥,連翹を加味しますが,時によってさらに石膏,大黄を加えて消炎作用を強めることもあります。消風散の初期の場合と鑑別が困難で,使ってみて始めてその差がわかるということもあります。 当帰飲子:『済生方』に書かれている薬方で,当帰, 芍薬,川芎,蒺梨子,防風,地黄,何首烏,荊芥,黄耆,甘草の10種類の生薬で構成されております。体力の弱い,陰虚証に用いられるもので,乾燥性であるか,小水泡などのある場合に用いられます。 冬に向かつて悪化するような皮膚の疾患は,多くは陰虚証でありますので,この薬方の適応である場合が多いようであります。
越脾加朮湯: これは『金匱要略』に書かれている薬方で,麻黄,石膏,生姜,大棗,甘草,白朮等の生薬で構成されております。体力があって,口の渇きがあり,尿の出が悪く,軽度のむくみがあって,いわゆる水毒の証というもののあるものに用います。
桂枝茯苓丸:『金匱要略』に書かれてある薬方で,桂枝,茯苓,牡丹皮,桃仁, 芍薬の5種類で構成されています。体格が中位で,虚実中間証およびやや実証の場合に用いられます。漢方で瘀血といわれる血液の停滞によって起こるいろいろな症状,たとえば口の渇き,尿利の多い乙と,体の熱感,赤い発疹,肌あれ,出血傾向,あるいは女子の月経異常,腫瘍や,ガスがないのに下腹部に圧痛,抵抗などの生ずる場合に用いるわけであります。
桃核承気湯:『傷寒論』および『金匱要略』書かれている薬方で,桃仁,大黄,桂枝,甘草,芒硝の5種類の生薬から構成されております。体力が強く実証で,便秘があって,瘀血の症状とのぼせなどの症状があり,桂枝茯苓丸の場合より症状の一段と激しいものに用います。皮膚の疾患では多くは乾性で,とくに痂皮形成などのあるものに用います。
大黄牡丹皮湯:これは『金匱要略』に書かれである薬方で,大黄,牡丹皮,桃仁,冬瓜子,芒硝の5種類の生薬より構成されております。体力があって実証で,便秘があり,また瘀血の証のあるもので,化膿性の炎症などのあるものに用いられます。
当帰芍薬散: これは『金匱要略』に書かれている薬方で,当帰, 芍薬,茯苓,白朮,沢瀉,川芎の6種類の生薬で構成されております。体力が弱く,陰虚証で,手足などが冷えて貧血気味で頭重感,めまい,肩とり,動l季などを訴えて疲れやすいものに用いられます。発疹や掻痒感は弱いものが多いものです。
大柴胡湯:『傷寒論』および『金匱要略』に書かれている薬方で,柴胡,黄芩, 芍薬,半夏,生姜,枳実,大棗の7種類,あるいは大黄を加えた8種類の生薬で構成されております。体力のある実証で,胸脇苦満といわれる季肋部の自他覚的緊張の腹証のある場合に用いられます。
小柴胡湯:『傷寒論』および『金匱要略」に 書かれている薬方で,柴胡,半夏,黄芩,大棗,人参,甘草,生姜の7種類の生薬より構成されております。実証であっても大柴胡湯を用いる場合よりも体力が弱く,胸脇苦満という腹証も弱いものです。これは大柴胡湯よりも応用する範囲は広いのです。
四逆散:『傷寒論』に書かれている薬方で,柴胡,枳実,芍薬,甘草の4種類の生薬より構成されており,実証ですが,体力は大柴胡湯を用いる場合と小柴胡湯を用いる場合の中聞くらいで,胸脇苦満という腹証も両者の中聞くらいですが,腹直筋が上腹部で緊張しているというものに用います。
大承気湯:『傷寒論』および『金匱要略』に書かれている薬方で,大黄,厚朴,枳実,芒硝の4種類の生薬で構成されております。体力があり実証で,腹部が硬く膨満して,便秘があるもの,口が渇き,舌苔を認めるようなものに用います。
小承気湯:『傷寒論』および「金匱要略」に書かれている薬方で,大黄,枳実, 厚朴の3種類の薬方で構成されております。便秘があって,虚実中間証あるいは実証であって,大承気湯を用いる場合より体力の劣ったもの,および症状の弱いものに用います。
白虎加桂枝湯:『傷寒論』に書かれている薬方で,知母,梗米,石膏,甘草,桂枝の5種類の生薬で構成されております。実証または虚実中間証くらいで,体力が中くらいで,口の渇きがあり,のぼせが強く,時々カッと顔の方にのぼせてきたり,あるいは頭痛がしたりする場合に用います。
白虎加人参湯:『傷寒論』および『金匱要略』に書かれている薬方で,白虎加桂枝湯の桂枝の代わりに人参の入った薬方であります。実証または虚実中間証に用い,口の渇きが強く,煩渇という状態で尿や汗も多く,のぼせは,前の白虎加桂枝湯のようには強くないものに用います。
温経湯:『金匱要略』に書かれている薬方で,呉茱萸,当帰,川芎,芍薬,人参,桂枝,阿膠,牡丹皮,生姜,甘草,半夏,麦門冬の12種類の生薬から構成されております。婦人で体力が弱く,冷え症で月経異常があり,下腹部がつれて痛んだり,腹部が膨満したりして,便秘に傾いており,手のひらが熱く,唇が渇いているような場合に用います。皮膚の病変は乾性の場合が多いようであります。
黄連連阿膠湯:『傷寒論』に書かれている薬方で, 黄連,黄芩,芍薬,阿膠の4種類の生薬で構成されていて,卵黄で服用する点が異なったところです。体力は弱い方で,動悸,胸苦しさがあって不眠を訴えたりするものに用いてよいことがあります。
三物黄芩湯:『金匱要略』に書かれている薬方で,黄芩,苦参,地黄の3 種類の生薬から構成されております。虚実中間証くらいで,瘀血があって唇が渇き,手と足の熱感を訴え,夜もよく眠れぬような点を目標といたします。
桂枝加黄耆湯:『金匱要略』に書かれている薬方で,桂枝,芍薬,大棗,生姜,甘草,黄耆の6種類の生薬で構成されております。体力が弱く陽証であって,発汗や分泌液の多いものや,小水泡形成などのあるものに用います。
桂麻各半湯:『傷寒論』に書かれである薬方で,桂枝,芍薬,生姜,甘草,麻黄,大棗,杏仁の7種類の生薬で構成されております。麻黄湯を用いるより体力が弱く,桂枝湯を用いる場合よりも体力が強いというところで,乾性の発疹およびかゆみのある場合に用います。
梔子柏皮湯:『傷寒論』に書かれている薬方で,梔子,甘草,黄柏の3種類の生薬から構成されております。胸がなんとなく気持が悪いという点が目標で,虚実中間証くらいで,乾性の発疹のあるものに用いられます。
五苓散:『傷寒論』および『金匱要略』に書かれている薬方で,虚実中間証くらいの体力で, 喉の渇きがあって尿利の減少する場合, 漢方で水毒といわれる水の代謝異常の場合に用いられます。
八味地黄丸:『金匱要略』に書かれている薬方で,地黄,山茱萸,山薬,沢瀉,茯苓,牡丹皮,桂枝,附子の8種類の生薬の構成によるものです。体力はやや弱く陰証であって,胃腸の働きは正常,疲れやすく,下腹部に脱力感があったり,同部分に逆に腹筋の緊張があって,尿利の異常があり,手足が熱いというものなどに用います。発疹はあまり著明でないか,または発疹がなくてかゆみのある場合もあります。
真武湯:『傷寒論』に書かれている薬方で,茯苓,芍薬,生姜,朮,附子の5種類の生薬の構成より成るものです。体力が弱く,陰虚証であって,生気に乏しし腹証は軟弱無力か,反対に薄く緊張して弾力性に乏しいものに用います。発疹は赤味を帯びることはなく, 掻痒感は強いこともあります。
加味逍遥散:これは『和剤局方』に書かれている薬方で,当帰,芍薬,柴胡、朮,茯苓,薄荷葉,甘草,牡丹皮,梔子,生姜の10種類の生薬から構成されております。体力が弱く,虚証の人で,手足が冷えやすく,時々全身がカッとあっくなったりして疲れやすく,頭重感あるいは頭痛,めまい,動悸,不眠などを訴え,精神不安のある場合に用います。時には四物湯(当帰,芍薬,川芎,地黄)を加味することもあります。
防風通聖散:『宣明論』に書かれている薬方で,当帰, 芍薬,川芎,梔子,連翹,薄荷葉,生姜,荊芥,防風,麻黄,大黄,芒硝,朮、桔梗,黄芩,石膏,甘草、滑石の18種類の構成から成るものです。陽実証で体力があり,腹部も膨満して便秘がちである人で,胸脇苦満という腹証はなく,食毒,水毒,血毒の充満によって起こる病変を発汗,利尿および便通によって瀉下して治癒に向かわしめるものであります。
黄連解毒湯:『外台秘要』に書かれている薬方で,黄連,黄芩,黄柏,梔子の4種類の生薬より構成されております。陽証で,体力が虚実中間よりも強い人で,便秘がなく、のぼせ,手足のほてりなどを訴えるものに用います。
清上防風湯:『万病回春』に書かれている薬方で,荊芥,黄連,薄荷葉,梔子,枳実,甘草,川芎,黄芩,連翹,白芷,桔梗,防風の12種類の生薬で構成されております。陽実証,または虚実中間証で体力のある人の顔面や頭部の皮膚疾患に用いられます。
袪風敗毒散:『寿世保元』に書かれている薬方で,枳殻,赤芍薬,前胡,柴胡,荊芥,薄荷葉,牛蒡子,蒼朮,独活,白姜蚕,連翹,川芎,羗活,蝉退,甘草,生姜の16種類の生薬から構成されております。主として乾性の皮膚疾患に用いられることがあります。
竜胆瀉肝湯:『薛氏十六種』に書かれている薬方で,車前子,黄芩,沢瀉,木通,地黄,当帰,梔子,甘草,竜胆の9種類の生薬から構成されております。実証で体力のある人の下腹部や,会陰部の熱感,充血,疼痛,腫脹などのあるものに用いられます。冷え症があったり,体力が虚弱な場合には用いてはいけません。
柴胡勝湿湯: 『蘭室秘蔵』に書かれている薬方で,柴胡,茯苓,当帰,竜胆,沢瀉,甘草,黄柏,羗活,麻黄根,防已,升麻,五味子,紅花の13種類の生薬より構成されております。会陰部の発疹に用いられます。
十全大補湯: 『和剤局方』に書かれている薬方で,人参,黄耆, 白朮,当帰,茯苓,地黄,川芎,芍薬,桂枝,甘草の10種類の生薬より構成されております。体力,気力ともに衰え,皮膚が乾燥し,貧血,寝汗,微熱,口の渇き,精神不安などがあって,食欲の減少を伴うものに用いられます。
大芎黄湯または治頭瘡一方:日本の和田東郭の作った薬方で,忍冬,紅花,連翹,荊芥,朮,防風,川芎,大黄,甘草の9種類の生薬より構成されております。小児の乾性疾患や痂皮形成,発疹,あるいは成人の化膿性膿庖の続発する場合などに用いられます。
葛根湯:『傷寒論』および『金匱要略』に書かれている薬方で,葛根,麻黄,生姜,大棗,桂枝, 芍薬,甘草の7種類の生薬より構成されております。体力のある陽実証の人で,乾性の病変に用いられます。痒みのはなはだしい煩操という状態の場合は石膏を加えて用います。
香蘇散:『和剤局方』に書かれている薬方で,香附子,紫蘇葉,甘草,陳皮,生姜の5種類の生薬から構成されております。体力のやや弱い,やや虚証に入った人に用います。皮膚疾患には桜皮,梔子,荊芥を加えた方がよいこともあります。
茵蔯蒿湯:『傷寒論』および『金匱要略』に書かれている薬方で,茵蔯蒿,梔子,大黄の3種類の生薬から構成されております。実証で体力のある人に用いられます。
橘皮大黄朴硝湯: 『金匱要略』に書かれている薬方で,橘皮,大黄,芒硝の3種類の生薬から構成されております。実証の人に瀉下作用によって治癒機転をはかる場合に用いられます。
黄耆建中湯: 『金匱要略』に書かれている薬方で,黄耆,桂枝,甘草,大棗,芍薬,生姜,膠飴の7種類の生薬により構成されております。体力が弱く,虚証で,発疹に希薄な分泌物を伴うような場合に用いられます。
当帰四逆湯: 『傷寒論』に書かれている薬方で,当帰,桂枝, 芍薬,細辛,甘草,木通,大棗の7種類の生薬で構成されております。虚証で体力が弱く,冷え症である場合の発疹に用いることがあります。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯:前方にさらに呉茱萸と生姜を加えた9種類の構成であります。前者の場合よりさらに冷えが強く,発疹のほかにチアノーゼ様の症候を呈するような場合に用います。
大青竜湯:『傷寒論」および『金匱要略』に書かれている薬方で,麻黄,杏仁,桂枝,生姜,大棗,甘草,石膏の7種類の生薬で構成されております。陽実証で,体力が強健で,煩操を伴うような場合に用いられます。
小青竜湯:『傷寒論』および『金匱要略』に書かれている薬方で,麻黄,芍薬,細辛,乾姜,甘草,桂枝,五味子,半夏の8種類の生薬で構成されております。漢方でいう水毒によって種々の症状を起こす場合に用いられます。発疹に薄い分泌物を伴うような時にも用いられます。
麻杏薏甘湯:『金匱要略』に書かれている薬方で,麻黄,甘草,薏苡仁,杏仁の4種類の生薬で構成されております。実証で体力があり,乾性の発疹および掻痒に用いることがあります。
症例
症例 1:4 7才の婦人で, 10年も前から時々手が化膿したりします。最近は顔や首に発疹が出て,掻痒感があり,医治を受けてアレルギー性皮膚炎として治療をしておりました。この人は中肉中背で,食欲も便通も正常,頭重感,肩こりなどはなく,口の渇き,尿利異常もありません。就寝後の排尿はなし、めまい,胸やけ,もたれなどもありません。睡眠は正常で,月経も順調であります。手足の冷えなどは訴えません。 脈は沈・実で,舌は湿潤して苔を認めません。腹証で軽い胸脇苦満があるほかは圧痛や抵抗などは認めません。 十味敗毒湯加連翹を服用させておりますと, 発疹も掻痒感も軽くなってきましたので,治療を中止しました。
症例2:34才の婦人で, 4年前に首の周囲に発疹が出ましたが, 医治を受け6ヵ月くらい治療を続けて発疹がよくなったととがあります。その後,頬に発疹が出てきてなかなかよくならないので,皮膚科の検査を受け,ある化粧品が原因していることがわかりましたが,その化粧品の使用をやめても発疹はよくならず,皮膚科の外用薬をつけるとよいようにみえても,やめると皮膚がカサカサして皮がむけるようになります。また月経前になりますと,皮膚の発疹がましてくるように感じるということです。 今まで十味敗毒湯を購入して飲んだことがあるそうです。 体格は中肉中背で,食欲も便通も正常,頭痛もなくて,時々肩こりがあります。口の渇きもなく,尿利は正常で,就寝後に尿利は訴えません。めまい,胸やけ,もたれなどもありません。睡眠は寝つきはよいのですが,夜間時々自をさますということです。月経も順調で足の冷えなどもありません。脈は洗で,舌は湿っていて苔を認めません。腹証では腹力中等度で,胸脇苦満,瘀血の圧痛点その他の異常所見は認めません。頬には乾性の病変を認め,痒みもあります。温清飲加荊芥連翹を処方して服用させましたととろ,痒みもとれて皮膚も正常に変わってきました。約1ヵ月くらいのちには治療の必要がなくなりました。
症例3:40才の婦人で, 20年も前から秋から冬,春にかけて,毎年手足に発疹が出て痒みもあり,あまり掻くと皮膚の表皮がむけてなかなか治らないということであります。今回は下腿の方に粟粒大の小水泡ができており,痒みが非常に強いということであります。体格は中肉中背で食欲は正常ですが,便秘の傾向があります。頭痛も肩こりも訴えません。口の渇き,尿利なども異常はありません。めまい,胸やけ,もたれなどもありません。睡眠は正常,月経も順調であります。冷え症があって,脈は沈,遅・弱で,脈拍数は1分聞に56くらいです。舌は湿っていて苔は認めません。腹証で腹力はやや弱く,軟弱ですが,軟弱無力というほどではありません。左下腿には3cmX4cmくらいの発疹の塊りが認められ,皮膚と同色くらいの粟粒大の発疹の集まりで,その小さな一つを破ってみると水様の液が出てきます。いつもこの水泡を軽く破ると痒みがとれてきてその場所は治りますが,他のところに同様な発疹が出てくるというような繰り返しだそうです。陰虚証でありますので,当帰飲子を処方して服用させておりますと,数日後に水泡が消失してきました。その後続けて服用しておりますと,その冬はそのまま発疹が出ませんでしたし,掻痒感も起こらなかったということです。
症例4:50才の婦人, 2-3目前に突然右前膊伸側に掻痒感を覚え,発疹,発赤が出てきて, 夜間痒みが強いということであります。体格は小柄ですが,少し肥満しているような体形で,食欲も便通も正常であって,頭痛も肩こりもありません。口の渇きは少しありますが,たくさん水を飲みたいというほどではありません。尿利も正常で,夜間に尿利のために目ざめるというようなことはありません。めまい,胸やけ,もたれ感などは訴えません。睡眠は痒みのため目ざめるほか,眠れないというほどではありません。月経は閉経前のためか最近不順になっているということです。腹証は腹力中等度で,胸脇苦満や瘀血の圧痛点はありません。また,脈は沈で,舌は湿潤して苔を認めません。発赤と乾性のところから温清飲を処方して服用させましたところ,翌日には右前膊内側の発赤は強くなり,湿ってきまして,痒みも熱感も一段と強くなってきました。そこで診断の誤りを認め,消風散を処方し服用させました。翌日より感も発疹も徐々に減じてきまして,体液の浸出も減ってきました。皮膚の発赤も減少し,約2週間後に皮膚は正常となりました。
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